読んだら3倍考えるビジネス書評ブログ

著名コンサルタントの大前研一さんは、本を読んだら読んだ時間の3倍考えろと指導されているそうです。

企業戦略の本

アパレル業界の多様なプレイヤー|誰がアパレルを殺すのか

投稿日:

日本を代表するアパレル業界のプレイヤーにはファーストリテイリングなどがあります。

現在のアパレル業界は、次のようなプレイヤーが混在している状態といえるでしょう。

  • 高価なブランド品: イヴサンローラン、バーバリー
  • おしゃれな高級品: ラルフローレン、ポールスミス
  • 高コスパのSPA: H&M、ZARA、ユニクロ
  • 従来型小売業: 三越伊勢丹、高島屋
  • 新興小売業: スタートトゥデイ、アマゾン

こういった業界構造が今後どのように変化していくのか、もしくは今までにどのように業界が変化してきたのかが書かれています。いろいろな業界プレイヤーの「思想」が書かれている点が面白く、すらすらと読める一冊でした。

本書の概要|日経の記者が書く「アパレル業界の現在」

書名: 誰がアパレルを殺すのか
著者: 杉原 淳一、染原 睦美
出版社: 日経BP社
出版年月: 2017年5月

著者紹介

杉原 淳一(すぎはら・じゅんいち)さん

1981年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2005年日本経済新聞社に入社し、大阪経済部でアパレル・スポーツ用品業界などを取材。2009年に東京に異動し、経済部で銀行や金融庁などを担当。2015年4月、日経BP社に出向し、「日経ビジネス」記者。2016年秋からアパレル業界を中心に取材を進める。

染原 睦美(そめはら・むつみ)さん

1981年生まれ。中央大学文学部卒業。2004年に日経BP社に入社し、「日経パソコン」に配属。2009年「日経ウーマンオンライン」の立ち上げに携わった後、2013年4月から「日経ビジネス」記者。ネットサービス関連、アパレルなどの担当を経て、2017年春から日用品・化粧品業界を中心に取材する。

著者は2人とも日経の記者のようです。個人的には新聞記者の知識量をそれほど信頼していないのですが、アパレルについてきちんとわかっているであろうアパレル業界の経営者や証券アナリストなどはめぼしい本を書いておりません。アパレル業界について気になっている人は、こういった著者の本を読むのが最善ではあるでしょう。

本書の内容|アパレル業界の消化仕入れと最新の業界プレイヤー

第1章 崩れ去る〝内輪の論理〟

「消化仕入れ」によって無責任な販売文化ができてしまったというのが、アパレル業界衰退の原因についての著者の意見です。

こうした業界の実態を、経済産業省が2016年に公表した「アパレル・サプライチェーン研究会報告書」はデータで裏付ける。報告書によると、国内アパレルの市場規模は1991年に約15・3兆円あったが、2013年には約10・5兆円に縮小した。

1990年代を起点として、アパレル業界に「商品単価の大幅な下落」という大きな変化が起きた。1991年を100とした場合の購入単価指数は、2014年には60程度まで落ち込んでいる。

出典:杉原淳一・染原睦美「誰がアパレルを殺すのか」2017年。

第1章では、アパレル業界がいかに縮小しているのかについての事実が書かれています。上のように市場規模自体が大きく縮小していることだけでなく、「バッタ屋」と呼ばれる売れ残った衣服を格安で販売する業者が活性化してきていることからも縮小傾向がわかります。

この背景にあるのは、経済不況や人々の衣服への関心の低下などだけではありません。単価の大きな下落も認められます。

百貨店は店舗内の売り場をアパレル企業に提供するが、商品の所有権はアパレル企業が持ったまま。販売員の確保まで含めて、アパレル企業が負担する。そして、店頭で商品が売れた分だけ「百貨店がその商品を仕入れた」と見なし、アパレル企業に仕入れ代金を支払う。つまり百貨店は在庫リスクを負わない。商品を万引きされたり、火事で商品が焼失したりしても、損害はアパレル企業が負うことになる。

出典:杉原淳一・染原睦美「誰がアパレルを殺すのか」2017年。

著者は、その背景にあるのが百貨店の仕組みだと主張しています。消化仕入れと呼ばれる仕組みです。

消化仕入れとは、売れ残った責任はメーカーが負うという仕組みです。百貨店は、まず気に入った服を仕入れて売れ残ったらメーカーに返却します。このため、百貨店は在庫に関してノーリスクの運営ができます。この仕組みのために、売れる商品を仕入れてきちんと売り切るというモチベーションが失われてしまったといわれます。

ここでは「百貨店特有」や「アパレル業界特有」と書いてありますが、そうではありません。コンビニの週刊誌なども確か消化仕入れですし、置き薬なども消化仕入れです。著者らが本当に知らなかったのか、アパレル業界の特殊さを過剰にアピールしたかったのかは知りませんが、こういう書き方は語弊があります。

第2章 捨て去れぬ栄光、迫る崩壊

SPAモデルの限界とアパレル業界の盛衰

1990年代後半からはユニクロの時代だった。1900円のフリースが大ヒットを記録。それまで1万円以上するのが当たり前だったフリースを価格破壊すると同時に、SPAがアパレル業界を主導することとなった。

(中略)

2014年、三陽商会は約半世紀に渡って主力商品と位置付けてきた英バーバリーのライセンス権を失うと発表。2000年の契約更改時に20年間という条件で合意したが、高級路線を目指す本国と折り合わず、結果的に期間を15年に短縮され、ライセンス契約の再更改も実現しなかった。

(中略)

不振から抜け出せない日本のアパレル業界を尻目に、米国ではIT(情報技術)とアパレルを組み合わせた新しいビジネスが生まれ、花開いている。原価を顧客に開示するオンラインSPA「Everlane(エバーレーン)」などがその代表例だ。周回遅れの日本でも、他産業のようなIT導入による革新が起き始めた。

出典:杉原淳一・染原睦美「誰がアパレルを殺すのか」2017年。

買収や合併、提携やその解消などについても書かれていました。アパレル業界の歴史などに興味のある方には面白い部分かもしれません。

一方で、伝統的なアパレル産業(具体的には、消化仕入れで高級品を並べる百貨店のアパレル部門)にとってかわって、ユニクロ(ファーストリテイリング)が成長してくるという話です。実際、延々と伸び悩んでいる三越伊勢丹の株価と対比して、ファーストリテイリングの株価はそれなりのスピードで伸びています。[1]ファーストリテイリングは1994年に上場しています。上場した当時の時価総額は約1,000億円でしたが、2017年7月現在の時価総額は約4兆円です。20年程度で時価総額が40倍になっているということは、年率20%くらいで株価が成長しているということになります。これは日本の企業としてはかなり早い成長です。また、ファーストリテイリングは、日経平均株価に与える影響が最も大きい企業ですから、日経平均の上昇は一部ファーストリテイリングに支えられているといえます。ただし、1994年というのがアマゾンの創業年であると考えると、ファーストリテイリング程度で「凄まじい成長」と呼んでしまうのはいかがなものかとも思います。アマゾンの時価総額はファーストリテイリングの10倍以上となっています。

第3章 消費者はもう騙されない

既得権益や業界内の〝内輪の論理〟にとらわれて身動きが取れなくなった様々な産業が大きな脅威に直面している。「ディスラプター(破壊者)」と呼ばれる新興プレーヤーたちが外から参入しているからだ。特に米国ではディスラプターの勢いは日に日に増す一方だ。

ライドシェア「Uber(ウーバー)」の台頭はタクシー業界の勢力図を塗り替えた。民泊サービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」によってホテル業界は大きな変革を迫られている。インターネットを駆使し、業界の「外」からイノベーションを起こす新興プレーヤーが、世界を変え始めている。そして、この流れはアパレル業界にも到達している。

出典:杉原淳一・染原睦美「誰がアパレルを殺すのか」2017年。

いわゆるシェアリングエコノミーなどの話が出てきています。2017年現在は、「あらゆる業界において、最大の競合企業はGoogleになる」だとか言われるような時代です。他業界との競争の脅威があることは否めません。本書は全体的に「アパレル業が特別困っている」という論調になっておりますが、この章の冒頭だけは他業界も含めた業界再編の話などが出てきます。

私が読んだほかの本にも書かれていましたが、近年は「プロの消費者」が増えているといわれます。インターネットなどを駆使して商品に関する知識を身につけて、どの商品が優れていてどの商品が劣っているのかを見分ける能力のある消費者です。[2]パソコンやカメラなどにおいては、以前からこういった消費者は多かったように思います。家電量販店の店頭で店員に教えてもらいながら買う「一般の消費者」がもちろん多数派ですが、各パーツのベンチマークなどに精通しており、自分で機器を評価して「この機器は性能のわりに高いな。デザインもそれほど優れていないのに。」といったコメントをするような消費者も珍しくはないでしょう。かくいうわたしも、パソコンについていえばそれなりに見る目のある「プロの消費者」に分類される消費者だと思っています。

「ミレニアル世代にとってのラグジュアリーは、どこで作られたか、どのように作られたかに価値がある。ブランドの名前よりも質、職人技、信頼性が、はるかに大切になっている」

時代のニーズを敏感に感じ取り、顧客を増やしているのがエバーレーンなのだ。

出典:杉原淳一・染原睦美「誰がアパレルを殺すのか」2017年。

そんな時代において、エバーレーンなどは情報公開を進めています。ファーストリテイリング会長の柳井さんも「近年の消費者は原価率を見抜くようになってきた」などと発言されていたと記憶しています。アパレル業界にかぎらず、原価率を公開する企業も昔よりは増えてきているように思います。

原価率を公開しているアパレル企業で有名なのはメーカーズシャツ鎌倉です。メーカーズシャツ鎌倉が生産するシャツは「鎌倉シャツ」と通称されますが、彼らは収益を最大化することよりも良質なシャツを低価格で提供することをに重きを置いています。創業家がほぼすべての株式を持つ非上場のオーナー企業ですから、稼ごうが稼ぐまいが創業家がYesというなら正しい方針です。メーカーズシャツ鎌倉は原価率70%程度でシャツを販売しており、高品質なシャツを求めるビジネスパーソンから高い支持を獲得しています。

比較的有名な企業だという認識だったのですが、「誰がアパレルを殺すのか」にはメーカーズシャツ鎌倉の話題は出てきません。

第4章 僕らは未来を諦めてはいない

「販売」ではなく「営業」をするといった新しい考え方が書かれています。

従来のアパレル業は売るために接客をして、売れ残ったらメーカーに返却する(消化仕入れ)という方式で収益を上げてきました。しかし、消費者の見る目が養われてきたいま、売るために接客をする「販売」では売れなくなってきているということでしょう。

近年は、店舗は消費者とコミュニケーションをとる場所であり、売るのはオンラインストアで結構というような考え方を持っている企業は珍しくなくなってきているように思います。Eコマース最大手のAmazonも国内にはたしか実店舗を持っていませんし、Amazonから「販売」を受けることはあまりありません。(アマゾンから送られてくるメールをあまり見ない人であればですが。)

そのような中で、TOKYO BASEという振興のセレクトショップの話題が出てきます。

「アパレル業界に大器晩成はない。20~30代向けのマーケットで戦うなら、若くして芽が出ない人間は生き残れないから」。そう語る谷氏の経営哲学を端的に示しているのが、同社の人事・賃金制度だ。

「東京・渋谷区内に住めば、住宅手当てを3万円追加」「『スーパースターセールス』に認定されれば、個人売上額の10%がそのまま給料に」――。トウキョウベースの初任給は月25万円(通勤手当、固定残業代含む)。その上に、売上実績などに応じた各種インセンティブが加算されていく仕組みだ。

出典:杉原淳一・染原睦美「誰がアパレルを殺すのか」2017年。

私は比較的高給な職業に就くので月25万+インセンティブ10%というのはあまり魅力に感じないのですが、アパレル業界では好待遇な部類なのでしょう。

しかし、よく考えてみると5,000円のシャツを1人に売って500円というのは、1,000~1,500人にレビューを読んでもらって500円というアフィリエイトと比べるとはるかに良いインセンティブかもしれません。

世の中は大量の衣料品であふれている。にもかかわらず、さらに日々新たな商品を作り続けることに、どれほどの意味があるのか。長期間使ってもらうモデルを模索すれば、不毛な「短期大量生産」のサイクルから脱することができるし、「修理」「リサイクル」を新たな成長の柱に据えれば、新品を作らずともビジネスは成り立つのかもしれない。

出典:杉原淳一・染原睦美「誰がアパレルを殺すのか」2017年。

それから、中古市場の魅力について書かれて締めくくられています。

個人的には古着は来たくありませんし、長男だったため幼いころからおさがりを着た覚えもないのですが、世の中には古着をいとわない人も少なくないのでしょう。中古服飾品ECのZOZOUSEDがそこそこ調子がいいらしいことを鑑みると、この市場は確かに魅力的なのかもしれません。

「誰がアパレルを殺すのか」こんな読者におすすめ

アパレル業についてさまざまな視点で書かれた書籍でした。

個人的に読む価値があると感じた点は、振興・老舗によらずさまざなアパレル業界のプレイヤーの名前があがっているところです。1冊でさまざまな企業名とその概要を知ることができるという意味で、効率的にアパレル業界のことを理解できるのではないかと思います。特に、中古市場やセレクトショップなどについては、アパレルそのものに関心を持っていないかぎり触れる機会がないと思いますので、アパレルにはそこまで興味はないが、アパレル業界について知っておきたいという人には適した本だといえるでしょう。

一方で、単に服が好きだとかそういう人には向かない本だと思います。あくまでアパレル業界の変遷や展望について書かれた本でした。また、原価率が最も高いことで有名なメーカーズシャツ鎌倉について触れられていないなど、網羅性については多少疑問が残ります。私はアパレル業界に詳しくないので、有力でかつ書かれていない企業がほかにあるのかはわかりませんが、少なくとも網羅的に説明することを意識して作られた本ではないのでしょう。

Footnotes   [ + ]

1. ファーストリテイリングは1994年に上場しています。上場した当時の時価総額は約1,000億円でしたが、2017年7月現在の時価総額は約4兆円です。20年程度で時価総額が40倍になっているということは、年率20%くらいで株価が成長しているということになります。これは日本の企業としてはかなり早い成長です。また、ファーストリテイリングは、日経平均株価に与える影響が最も大きい企業ですから、日経平均の上昇は一部ファーストリテイリングに支えられているといえます。ただし、1994年というのがアマゾンの創業年であると考えると、ファーストリテイリング程度で「凄まじい成長」と呼んでしまうのはいかがなものかとも思います。アマゾンの時価総額はファーストリテイリングの10倍以上となっています。
2. パソコンやカメラなどにおいては、以前からこういった消費者は多かったように思います。家電量販店の店頭で店員に教えてもらいながら買う「一般の消費者」がもちろん多数派ですが、各パーツのベンチマークなどに精通しており、自分で機器を評価して「この機器は性能のわりに高いな。デザインもそれほど優れていないのに。」といったコメントをするような消費者も珍しくはないでしょう。かくいうわたしも、パソコンについていえばそれなりに見る目のある「プロの消費者」に分類される消費者だと思っています。

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